サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?ロジスティクスとの違いについて解説
サプライチェーンマネジメント(SCM)という言葉を聞いたことはありますか?製造業や小売業に携わっている方なら、一度や二度は聞いたことがあるのではないでしょうか。サプライチェーンマネジメントは単なるビジネス用語ではなく、私たちの日常生活とも非常に密接に関わっています。たとえば、私たちが日々手にする商品がどのようにして手元に届くのか、その背後には複雑なサプライチェーンの仕組みがあるのです。サプライチェーンマネジメントを正しく理解することで、企業は経営を戦略的に捉え、競争力を高めることができます。特に今日のグローバル化した市場においては、サプライチェーン全体の効率化や柔軟性の向上が求められ、これが企業の成長に直結しています。
さらに、サプライチェーンマネジメントは、企業のサステナビリティにも大きく貢献します。環境への配慮や倫理的なビジネスプラクティスが重要視される中で、企業はサプライチェーン全体を通じて持続可能なアプローチを取り入れる必要があります。これにより、企業は単なる利益追求から、社会的責任を果たす存在へと進化することが求められています。
そのため、本日はサプライチェーンマネジメントの基本的な概念や重要性、そして混同されやすいロジスティクスとの違いについて詳しく解説いたします。SCMの理解を深めることで、現代のビジネスが直面する多くの課題に対する洞察を得ることができるでしょう。
目次
サプライチェーンとは
サプライチェーンは英語ではSupply Chainと表記されます。日本語では「供給連鎖」を意味します。通常、製品は原材料の調達から製造、流通、販売といったプロセスを経て、最終的に消費者に渡り消費されます。サプライチェーンはこの一連の流れを指します。各企業の立場で整理して考えると、サプライヤー → メーカー → 物流事業者 → 卸売事業者 → 小売事業者 → 消費者という流れになります。この流れの中で繰り返される供給の連鎖が、チェーン(鎖)に見立てられることから、サプライチェーンと呼ばれています。
サプライチェーンは、単なる物流の流れ以上のものです。製品が生産され消費者に届くまでには、さまざまな要素が関与しています。これには情報の流れ、資金の流れ、さらには各段階における意思決定が含まれます。たとえば、サプライヤーが原材料を提供する際には、その供給が途切れないように適切なタイミングで調達しなければなりません。また、メーカーは生産計画を立てる際に市場の需要を考慮し、適切な数量を生産する必要があります。
さらに、今日のサプライチェーンはグローバルに展開されており、国境を越えた複雑なネットワークが構築されています。これにより、企業は世界中から最適な原材料を調達し、最も効率的な生産地で製品を製造することが可能になっています。しかし、このような国際的なサプライチェーンの構築には、異文化間のコミュニケーション、貿易規制、関税など、さまざまな課題が伴います。
サプライチェーンを管理する際には、各プロセスが連携していることが重要です。効率的なサプライチェーンは、消費者のニーズに迅速に応えることができ、企業にとっては競争力を高める要因となります。例えば、在庫管理を適切に行い、必要な製品を必要な時に供給することで、無駄を削減し、顧客満足度を向上させることができます。
次のセクションでは、サプライチェーンを戦略的に管理し、企業に高収益をもたらすための手法であるサプライチェーンマネジメント(SCM)について詳しく解説します。
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは
サプライチェーンマネジメントは英語ではSupply Chain Management(SCM)と表記され、日本語では「供給連鎖管理」と訳されます。先ほど説明したサプライチェーンを一つのビジネスプロセスとして捉え、企業や組織の壁を越えてプロセスの全体最適化を継続的に行い、製品・サービスの顧客付加価値を高め、企業に高収益をもたらす戦略的な経営管理手法です。SCMは、企業が競争優位を確立するための鍵となる戦略です。
SCMにおいて重要なのは情報の共有化です。通常、情報はモノの流れとは逆方向に流れます。消費者の声(レビュー)は小売業者に届き、その評価やPOS入力の情報を元に販売計画が修正されます。その後、卸業者を経てメーカーに発注数量が伝達されます。それを受けたメーカーは生産計画を修正し、サプライヤーに材料や部品を発注します。この情報の流れが途切れることなくスムーズに行われることで、需要と供給のバランスを保ち、リードタイムを短縮することが可能となります。
情報の共有化がうまくできていない場合、需要に対して供給が追い付かなかったり、リードタイムが長期化する恐れがあります。それは消費者が求めるものではありません。消費者は自分が欲しい商品をできるだけ早く手にしたいと考えています。リードタイムを短縮し、常に需要が求める量の供給ができるようにするためには、情報の伝達を最適化する必要があります。SCMはこの最適化を実現するためのアプローチを提供します。
また、SCMのもう一つの重要な目的として、在庫管理の適正化があります。消費者が求める在庫数を常に確保しておくと、在庫を増やしてしまうことがあります。これはしばしば供給が需要を上回り、企業が不良在庫を抱える原因となります。不良在庫は企業の利益を圧迫する最大のリスクです。そのため、予め需要予測を行った上で販売計画と生産計画を緻密に繋ぎ合わせ、各企業が不良在庫を抱えないように連携する必要があります。
SCMは、モノの流れと情報の流れを管理し、最適化を図り、適切なタイミングで適切な製品を市場に投入し、さらにそこから得られる情報を新たなビジネスへと繋げていくことを目的としています。このようにして、SCMは企業の戦略的な意思決定を支え、より良いビジネス成果をもたらします。
次に、サプライチェーンマネジメントが再注目される理由について詳しく見ていきましょう。SCMはなぜ現代のビジネス環境でこれほど重要視されているのか、その背景を探ります。
サプライチェーンマネジメントが再注目される理由
サプライチェーンマネジメント(SCM)は1982年にブーズ・アレン・ハミルトンのコンサルタントであるK.R.オリバーとM.D.ウェバーがこの言葉を初めて用いたとされています。ブーズ・アレン・ハミルトンは、1914年に設立されたアメリカのコンサルティング会社であり、企業や政府機関に対して戦略的なアドバイスを提供しています。同社は、特に経営戦略やIT系の分野で高い評価を得ています。
SCMという概念は、サプライチェーン全体を統合的に管理し、効率を高めるための手法として提案されましたが、約40年前のこの時代は今ほどIT技術は発達していませんでした。当時のITと言っても、各端末がネットワークで繋がっている現代とは異なり、個々のコンピューターが単独で演算処理を行う程度の技術でした。そのため、情報の共有やプロセスの最適化は現在と比べて非常に限られたものでした。
また、そのIT技術も大手企業こそ導入できていましたが、中小企業は費用面から導入を見送るケースが多かったのも事実です。このように、初期のSCMは情報技術の制約を受けながらも、企業がサプライチェーンの効率化に向けて取り組むための重要な指針となっていました。
しかしながら、近年はインターネットが普及し、企業や個人がパソコンやスマートフォンといったインターネット端末を持つようになり、これまで高額であった業務アプリケーションもクラウドサービスが台頭してからは費用面の安さから中小企業にも導入されるようになりました。その結果、サプライヤー、メーカー、物流事業者、卸売事業者、小売事業者、消費者といった立場の違う者でも迅速な情報共有ができるようになり、サプライチェーンを管理するための基盤が整ったと言えます。
さらに、グローバル化の進展や消費者ニーズの多様化、そして市場競争の激化により、企業はサプライチェーン全体の効率性を高めることが不可欠となっています。これにより、企業は迅速な意思決定を行い、市場の変化に柔軟に対応することが求められています。このような背景から、サプライチェーンマネジメントは再び注目を集めているのです。
サプライチェーンマネジメント(SCM)システム
サプライチェーンマネジメントを最適化するためには、システムの導入が必要不可欠です。サプライチェーンマネジメントシステム(SCMシステム)には、以下のような主な機能が実装されています。
需要予測
消費者の購買パターンを分析し、将来的な需要を予測することで、過剰在庫や品切れを防ぎます。
-発注計画
最適なタイミングで必要な数量の発注を行うことで、在庫コストを削減します。
需要調整
市場の変動に応じて需要と供給のバランスを調整し、供給不足や過剰供給を回避します。
受注管理
効率的な受注処理を実現し、顧客満足度を向上させます。
在庫管理
在庫の適正化を図り、コストを最小限に抑えながら、適切な供給を維持します。
生産計画
生産ラインの効率を最大化し、納期の短縮やコスト削減を実現します。
情報追跡
サプライチェーン全体の情報をリアルタイムで追跡し、迅速な意思決定をサポートします。
これらの機能により、SCMシステムは企業がサプライチェーンを効率的に管理し、顧客のニーズに迅速に対応するための強力なツールとなっています。
ERP(企業資源計画)
SCMと一緒によく紹介されるのがERPです。ERPとは英語のEnterprise Resource Planning(企業資源計画)の略語で、日本では統合基幹業務システムやERPパッケージとして認識されています。ERPパッケージはさまざまな部門の資源を一元管理することが可能なシステムです。
ERPは企業のさまざまな業務を統合し、リアルタイムで情報を共有することで、効率的な業務運営を可能にします。例えば、財務、人事、生産、販売などの情報を統合管理することで、部門間の連携を強化し、経営の可視化を実現します。
ERPの導入により、企業は次のようなメリットを享受できます。
経営分析と戦略構築の強化
一元化されたデータに基づく正確な経営分析を行い、効果的な経営戦略を構築します。
業務プロセスの最適化
業務フローを標準化し、効率を向上させることで、コスト削減を実現します。
迅速な意思決定
リアルタイムでの情報把握により、経営層が迅速かつ正確な意思決定を行います。
ERPにおいては、あらゆる業務の情報を一元管理し、経営の可視化を行います。SCMのデータもERPで一元化する情報に含まれ、SCMはERPの一部と言えるでしょう。
次のセクションでは、サプライチェーンマネジメントとロジスティクスの違いについて詳しく解説します。それぞれの役割や目的を理解することで、ビジネス運営における最適な戦略を見出すことができるでしょう。
サプライチェーンマネジメントとロジスティクスの違い
サプライチェーンマネジメントとロジスティクスは似ていますが、少しニュアンスが異なります。両者はしばしば混同されがちですが、それぞれの役割と目的には明確な違いがあります。
ロジスティクスとは
ロジスティクスは、主に単体企業の調達、生産、販売、回収までの供給プロセスを一元管理し、最適化を目指す活動です。具体的には、以下の要素を含みます。
輸送管理
原材料や製品を効率的に輸送し、コストを削減します。
在庫管理
必要な在庫を適切なタイミングで保持し、無駄をなくします。
倉庫管理
倉庫内の作業効率を向上させ、スペースを有効活用します。
-流通加工
製品の組み立てや包装を行い、消費者ニーズに応じた商品を提供します。
顧客サービス
顧客満足度を高めるためのサービス提供を行います。
ロジスティクスは、企業内の活動に焦点を当て、企業全体の効率を高めることを目的としています。このため、ロジスティクスは企業の内部オペレーションに特化した活動といえます。
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは
一方で、サプライチェーンマネジメント(SCM)は、サプライチェーンを構成する複数の企業を対象とし、サプライチェーン全体を統合的に管理します。SCMは以下のような要素を含んでいます。
戦略的パートナーシップ
サプライチェーン上の企業同士が連携し、情報や資源を共有します。
プロセスの全体最適化
各企業が連携してプロセス全体を最適化し、効率を向上させます。
情報共有
サプライチェーン全体でリアルタイムな情報共有を行い、迅速な意思決定を可能にします。
リスク管理
サプライチェーンのリスクを予測し、対策を講じることで安定した供給を確保します。
持続可能性
環境に配慮したサプライチェーンを構築し、持続可能なビジネスを実現します。
SCMは、サプライチェーン全体を俯瞰し、各企業が協力して最適化を図ることで、ビジネス全体の価値を高めることを目的としています。これにより、消費者ニーズに応じた製品やサービスを迅速に提供することが可能となります。
ロジスティクスは、主に企業内部のオペレーションを効率化することに焦点を当てています。一方、SCMは企業間の連携を重視し、サプライチェーン全体の最適化を図る広義の活動です。SCMはロジスティクスを包含しながらも、より包括的な視点でビジネスの成長を支える役割を担っています。
このように、サプライチェーンマネジメントとロジスティクスの違いを理解することで、企業は効果的な戦略を立案し、競争優位を築くことができます。次に、サプライチェーンマネジメントの課題について探っていきます。この理解は、現代のビジネス環境でのさらなる改善と革新のための基盤となるでしょう。
サプライチェーンマネジメントの課題
サプライチェーンにはさまざまなメリットがあることをご理解いただけたかと思いますが、課題があるのも事実です。サプライチェーンの複雑性や多様性が増す中で、業界ごとに異なる課題が浮上しています。今回はアパレル産業を事例にしてご紹介いたします。
アパレル産業のサプライチェーンの課題
株式会社矢野経済研究所の調査によるとアパレル企業のサプライチェーンマネジメントの課題は以下の通りです。
アパレル企業におけるサプライチェーンマネジメント(SCM)の優先課題(複数回答)は「在庫の最小化」が54.7%で最も多く、次いで「人材確保、育成」36.0%、「販売機会のロス軽減」「物流の効率化」の29.3%の順だった。
次に経済産業省(製造産業局)が発表したアパレル・サプライチェーン研究会報告書によると以下の課題が記載されています。
サプライチェーン内の関係を再構築していくためには、商取引慣行の改善が不可欠である。アパレル企業と製造事業者の間では、歩引きや未引取といった非合理的な商慣行が存在してきた。繊維産業流通構造改革推進協議会(繊維ファッションSCM推進協議会)の活動により、近年はかなり少なくなったといわれているものの、こうした商慣行は未だに残っていると言わざるを得ない。また、アパレル企業と百貨店の間では、懸案となっている休業日、営業時間や販売員の派遣などの諸課題について、一般社団法人日本アパレル・ファッション産業協会と日本百貨店協会で論議の場が設けられるなど、改善に向けた検討も行われているが、ショッピングセンター等課題はまだ残されている。
消費者はファッショナブル、クリエイティブな製品を求めるが、コストに敏感でもある。購入方法も、店頭で試着して買うだけでなく、ネットやスマートフォンで検索して購入するケースが増えているが、テナントによるオムニチャネル販売に消極的な商業施設は未だに多く、顧客を遠ざける一因にもなっている。消費者のニーズが多様化し、購入方法や消費スタイルも大きく変化している中で、サプライチェーン全般にわたり、従来の製造方法や販売方法、商取引慣行の見直しが求められている。
アパレル産業におけるこれらの課題に取り組むことで、企業は競争力を高め、持続可能な成長を実現することが可能となります。
次のセクションでは、これまでの内容を踏まえてサプライチェーンマネジメントの重要性と未来についてまとめていきます。現代のビジネス環境において、サプライチェーンマネジメントが果たす役割を再確認し、今後の戦略に役立てていきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?サプライチェーンマネジメント(SCM)の目的や重要性について、ご理解いただけたかと思います。SCMは、企業が競争優位を確立し、持続可能な成長を実現するための重要な手法です。しかしながら、課題が多いのも事実です。特にアパレル業界では在庫管理に悩む企業が非常に多いのが現状です。
不良在庫を抱えないためには、しっかりと売り切ることが重要です。そのためにはBtoBやBtoC、またEC(電子商取引)などの在庫を保管している物流拠点を集約し、在庫を一元管理する必要があります。在庫の一元管理は、異なる販売チャネルでも在庫状況をリアルタイムで把握し、機会損失を未然に防ぐことができます。結果的に、不良在庫の発生率を低下させ、企業の利益を最大化することが可能となるでしょう。
また、情報技術の進化に伴い、SCMにおけるデジタル化も進んでいます。ビッグデータやAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などを活用することで、より高度な需要予測や効率的な在庫管理が可能となっています。これにより、企業は市場の変化に迅速に対応し、顧客満足度を向上させることができるようになります。
さらに、サプライチェーン全体のサステナビリティを考慮することも重要です。環境負荷の低減や倫理的なサプライチェーンの構築は、現代の企業にとって不可欠な要素となっています。持続可能なビジネスモデルを追求することで、企業は社会的責任を果たしつつ、長期的な成長を実現することが可能です。
アパレルの在庫管理やSCM全般でお悩みの場合は、ぜひお気軽にご相談ください。私たちは、アパレル業界だけでなく、さまざまな業種において豊富な取扱実績がございます。お客様のニーズに応じた最適なソリューションをご提供し、ビジネスの成長をサポートいたします。
SCMの理解を深め、これからのビジネスにおいて競争力を高めるための一助となれば幸いです。
アパレルの不良在庫を減らすなら在庫一元管理がおすすめ