トレーサビリティとは?食品等の流通業界で導入される安全・安心を実現する追跡システム
製造業と一口に言っても、その中には食品、家電、自動車といった多岐にわたる業界が存在します。それぞれの業界で扱う製品や技術は異なりますが、共通して重要視されるのが「安全」と「安心」です。特に食品業界では、消費者の健康と直接的に関わるため、製品の安全性は最も優先されるべき課題の一つです。食品の安全性について考える際、2002年に日本で初めて発見されたBSE(牛海綿状脳症)の事例は、今なお多くの教訓を与えてくれます。当時、BSEの発見は消費者に大きな衝撃を与え、牛肉の消費は急激に減少しました。この事態を受けて、食品業界では消費者の信頼を回復するため、さまざまな安全対策が講じられるようになりました。
具体的には、牛肉の特定危険部位(脳や脊髄など)の除去や全頭検査が義務付けられ、消費者に安全であることを保証する取り組みが行われるようになりました。しかし、安全を確保するためには、それだけでは不十分です。食品の生産から流通、消費に至るすべての過程において、透明性を確保し、問題が発生した際には迅速に対応できる仕組みが必要です。これを実現するために導入されたのが、トレーサビリティというシステムです。
トレーサビリティを導入することで、企業は製品の品質管理をより厳密に行うことができます。問題が発生した際には、迅速に原因を究明し、改善策を講じることが可能です。トレーサビリティは、もともと食品業界を中心に導入が進められてきましたが、その必要性は他の業界にも広がりつつあります。例えば、自動車業界ではリコール問題が頻発しており、製品の追跡可能性がますます求められています。家電業界においても、製品の安全性に対する消費者の意識が高まっているため、トレーサビリティの導入が進んでいます。
また、グローバル化が進む現代においては、国境を越えた取引が一般的となり、製品の生産地や流通経路が多様化しています。このような状況下では、トレーサビリティの導入により、国際的な規模での製品の安全性と信頼性を確保することが求められています。本日は、こうした背景からますます重要性を増しているトレーサビリティについて、その詳細な仕組みや導入のメリット、さらに直面する課題について詳しく解説していきます。トレーサビリティの導入を検討している方々にとって、有用な情報を提供できれば幸いです。
目次
トレーサビリティとは
トレーサビリティとは
トレーサビリティは、英語の「跡」を意味する「trace」と「能力」を意味する「ability」を組み合わせた「traceability」という言葉です。日本語では「追跡可能性」と訳されます。この概念は、製品がどのようにして生産され、どの経路を経て消費者に届いたのかを追跡できる仕組みを指します。トレーサビリティの目的は、製品の安全性と品質、さらには製品表示に対する消費者の信頼を確保することです。この仕組みは、原材料の出所、製造元、流通経路、販売先などの詳細な記録を維持することで実現されます。これにより、問題が発生した際には迅速かつ正確に原因を究明し、製品の回収や改善に役立てることができます。
トレーサビリティの概念は、単なる品質管理の手段を超えて、消費者の安全と企業の責任を支える基盤となっています。食品業界をはじめ、自動車業界、家電業界など、製品の品質と安全性が重要な役割を果たすさまざまな業界で広く採用されています。特に、グローバルな市場では、製品が複数の国や地域を経由することが一般的であり、その過程でトレーサビリティの必要性が一層高まっています。
トレーサビリティには主に二つの種類が存在します。それが「トレースフォワード」と「トレースバック」です。これらは製品の流通経路を追跡するための異なるアプローチを提供します。
トレースフォワード
トレースフォワードとは、生産者から消費者に向かって製品を追跡することを指します。具体的には、製品が製造された後、どのような流通経路をたどって市場に到達したのかを特定するプロセスです。例えば、製造段階で何かしらの問題が発見された場合、その製品がすでに市場に出回っている場合は、その流通経路を追跡して、問題のある製品がどの店舗や消費者の手元に渡ったのかを確認する必要があります。これにより、迅速にリコールを行い、消費者に対する安全対策を講じることができます。トレースフォワードのプロセスは、企業が製品の流通状況をリアルタイムで把握し、必要に応じて迅速な対応を可能にするための重要な手段です。
トレースバック
トレースバックは、トレースフォワードとは逆に、消費者から生産者に向かって製品を追跡することを意味します。このプロセスでは、製品に付与されたロットナンバーや製造工程の情報を基にして、「いつ」「だれに」「どこで」「どのように」製造されたのかを特定します。消費者が購入した製品に何らかの問題が発生した場合、トレースバックによりその製品の製造元を突き止め、問題の根本原因を特定することが可能です。例えば、食品の安全性が疑われるケースでは、特定のロットの製品を追跡して、その原材料の供給元や製造過程を調査することができます。これにより、問題の原因を明らかにし、再発防止策を講じることができるのです。
トレーサビリティの実現には、IT技術の活用が不可欠です。バーコードやRFID、IoT(モノのインターネット)、ブロックチェーン技術などが、トレーサビリティの追跡プロセスを支える基盤技術として利用されています。これらの技術を活用することで、製品の流通情報をリアルタイムで収集・管理し、迅速かつ正確な追跡を可能にしています。また、消費者にとっては、製品の安全性を保証する手段として、トレーサビリティ情報が提供されることが増えています。QRコードをスキャンするだけで、製品の生産履歴や流通経路が確認できるようになるなど、消費者の信頼性向上にも寄与しています。
トレーサビリティは、企業にとっての競争優位性を高める要素ともなっています。製品の品質や安全性をアピールすることで、消費者の信頼を獲得し、ブランドの価値を向上させることが可能です。したがって、トレーサビリティの導入は、単なる品質管理の枠を超えて、企業戦略の一環として考慮されるべき重要な取り組みです。
トレーサビリティの範囲
トレーサビリティは、その対象範囲によって大きく二つのカテゴリに分けられます。それが「チェーントレーサビリティ」と「内部トレーサビリティ」です。
チェーントレーサビリティ
まず、チェーントレーサビリティについて説明します。チェーントレーサビリティとは、サプライチェーン全体にわたって、複数の企業間で製品の追跡を行うことを指します。これは、原材料の調達から製造、流通、販売に至るまでのすべての段階を通じて、製品がどのように扱われたかを追跡するシステムです。このシステムは、サプライチェーンに関わるすべての企業が協力して情報を共有し、相互に連携することで成り立っています。チェーントレーサビリティは、製品の品質管理や問題発生時の迅速な対応において重要な役割を果たします。
消費者にとってもチェーントレーサビリティは大きなメリットをもたらします。具体的には、製品がどの生産者によってどのように生産されたか、どの経路を通じて自分の手元に届いたかを把握することができます。これにより、消費者は製品の安全性と品質に対する信頼を高めることができるのです。例えば、スーパーマーケットで販売されている食品には、産地や生産者、栽培方法が記載されたラベルが貼られています。これはチェーントレーサビリティの一環であり、消費者が製品のバックグラウンドを確認する手段として機能しています。
食品業界では、牛肉をはじめ、魚や野菜などの生鮮食品にトレーサビリティが適用されています。これにより、消費者は「どこで生まれた」「誰が育てた」「どのように育てた」といった情報をロット番号からトレースすることができます。これは特に、消費者の食の安全意識が高まる現代において、非常に重要な役割を果たしています。
さらに、チェーントレーサビリティは食品業界以外にも広がっています。自動車業界では、部品の追跡が可能であるため、リコールが必要な場合にも迅速に問題のある部品を特定し、影響を受けた車両を追跡することができます。同様に、製薬業界でも、薬品の成分や製造過程の詳細を追跡することで、万が一の問題発生時に迅速な対応が可能となっています。
内部トレーサビリティ
次に、内部トレーサビリティについて説明します。内部トレーサビリティは、企業や工場、物流の拠点ごとに個別で製品の追跡を行うことを指します。これは、企業内部の生産ラインや物流プロセスに焦点を当て、製品の流れや作業履歴を詳細に記録・管理するためのシステムです。
内部トレーサビリティは、企業が自社内での品質管理を強化するために利用されます。製品の原材料や部品がどこから調達され、どの工程を経て最終製品となったのかを正確に把握することができます。これにより、万が一製品に不良が発生した場合でも、迅速に問題の原因を特定し、必要な改善策を講じることができます。また、内部トレーサビリティは、生産効率の向上やコスト削減にも寄与します。製品の生産履歴を詳細に記録することで、ボトルネックとなっているプロセスを特定し、生産ラインの最適化を図ることが可能です。
物流業界においても、内部トレーサビリティは重要な役割を果たします。商品の入出荷状況や在庫管理、配送状況をリアルタイムで把握することができるため、在庫の最適化や配送効率の向上が実現します。これにより、企業は消費者へのサービスレベルを向上させ、競争力を高めることができます。
トレーサビリティは、企業の製品品質や消費者の安全を守るための重要なツールであり、今後もその重要性は増していくことでしょう。企業はチェーントレーサビリティと内部トレーサビリティの両方を適切に導入し、活用することで、製品の安全性を確保し、消費者の信頼を獲得していくことが求められています。
トレーサビリティを実現するためのブロックチェーン
トレーサビリティを実際に機能させるには、ブロックチェーン技術の導入が必要不可欠です。ブロックチェーンは、英語で「blockchain」と表記され、日本語では「分散型台帳技術」と訳されます。これは、サプライチェーンを構成する複数の企業間で情報を共有し、トレーサビリティを実現するための基盤となる技術です。特に、サプライチェーン全体での透明性と信頼性を確保するために、ブロックチェーン技術は重要な役割を果たします。
ブロックチェーンの特長は、その分散型の構造にあります。ブロックチェーンでは、ネットワーク上の複数のコンピュータ(ノード)にデータが分散して保存されており、各ノードが同じデータを持つことでデータの一貫性が保たれます。この技術は、仮想通貨であるビットコインをはじめとする多くの暗号通貨にも利用されています。ブロックチェーンの最も重要な特長の一つは、取引履歴の改ざんを防ぐ効果があることです。
従来、企業は独自に作業履歴や取引履歴を記録し、主に紙媒体を使用して管理していました。この方法では、情報の改ざんや紛失が起こりやすく、データの信頼性を確保するのが困難でした。特に、手作業による記録では、人的ミスが発生しやすく、情報の正確性に不安が残ります。さらに、情報が各企業内に分散しているため、サプライチェーン全体での情報共有が不十分になりがちです。このため、問題が発生した際に、迅速に対応することが難しい状況が続いていました。
ブロックチェーン技術の導入により、これらの課題が解決されつつあります。ブロックチェーンは、各ノードに同じ情報を持たせることで、データの透明性と信頼性を高め、改ざんを防止します。各企業が同一の情報をリアルタイムで共有できるため、問題発生時には迅速に対応し、正確な情報に基づいて原因を究明することができます。これにより、サプライチェーン全体の安全性と効率性が向上します。
また、ブロックチェーン技術は、消費者にとっても大きな利点をもたらします。例えば、製品のQRコードをスキャンすることで、製品の生産履歴や流通経路を確認することができます。消費者は、製品の生産者や原材料の出所を把握することができるため、製品の安全性に対する信頼を高めることができます。これにより、企業は消費者の信頼を得ることができ、ブランド価値の向上につながります。
ブロックチェーンは、その透明性と信頼性から、食品業界、自動車業界、製薬業界、ファッション業界など、さまざまな業界でのトレーサビリティの実現に貢献しています。特に、食品業界では、農産物や水産物の生産履歴を追跡し、消費者に安心と安全を提供するためのツールとして活用されています。また、自動車業界では、部品のトレーサビリティを確保し、リコール対応の迅速化を図っています。
安全と安心を実現するために必要なことは、万が一製品に不良が発見されたとしても、それを隠蔽せずに真実を受け止め、改善を図ることにあります。そのため、ブロックチェーン技術は、どの業界においても求められ、結果的に導入が進められています。企業は、この技術を活用することで、サプライチェーン全体の透明性を高め、消費者に対する信頼性を確保することができるのです。
トレーサビリティを導入するメリット
トレーサビリティの導入には、多くのメリットが存在します。このシステムは、企業の経営戦略や品質管理、顧客関係の構築において大きな役割を果たします。
製品のリスク管理
トレーサビリティを導入することにより、製品に問題が発生した場合、直ちに原因調査を行うことが可能になります。具体的には、製品にロットナンバーを付与しておくことで、問題が発生した際にそのロットがどのような経路をたどったかを追跡できます。これにより、問題が特定のロットに限定されている場合、該当するロットのみを迅速に回収すればよく、全品回収という大きなリスクを軽減できます。これにより、企業は不必要なコストを削減できるだけでなく、消費者に対して迅速な対応を示すことで、信頼関係を維持することができます。
例えば、食品業界では、異物混入やアレルギー物質の誤表示が発生した場合、トレーサビリティによって該当する製品を即座に特定し、リコール措置をとることができます。自動車業界においても、部品に不具合が発見された際に、問題のある部品が使用された車両を特定し、迅速に修理対応を行うことが可能です。こうした迅速な対応は、企業の信頼性を高めると同時に、法的リスクの軽減にもつながります。
作業の効率化・品質向上
トレーサビリティは、企業内での作業効率化と品質向上にも大きく寄与します。内部トレーサビリティを実施することで、企業は自社内のすべての工程を詳細に調査・管理することができます。具体的には、「材料や部品をどこから調達したのか」「調達した材料や部品がどのロットナンバーの製品に使用されているのか」「最終的にどこに納品されたのか」といった情報を把握することで、何か問題が発生した際には、すぐに原因を追究し、迅速に改善することができます。
さらに、リードタイムが長期化している場合、トレーサビリティを利用することで、プロセスのどこにボトルネックが存在するのかを特定することができます。これにより、集中的に業務改善を行い、作業の効率化を図ることが可能です。例えば、製造業においては、生産ラインの各工程のデータをリアルタイムで収集・分析し、ボトルネックとなっている部分を改善することで、生産性を向上させることができます。
また、品質管理においても、トレーサビリティは非常に重要な役割を果たします。製品の品質を維持・向上するためには、製造工程で発生した不良品を迅速に特定し、その原因を明らかにすることが求められます。トレーサビリティによって、製品の製造過程を詳細に追跡できるため、問題のある工程を特定し、適切な改善策を講じることができます。これにより、製品の品質を高い水準で維持し、顧客に満足してもらえる製品を提供することが可能です。
顧客満足度の向上
現代の消費者は、製品の安全性と透明性に対する要求が高まっています。消費者の中には「生産者が誰なのか分からないと買わない」といった考えを持つ人も多く、製品の生産過程や流通経路に対する情報を求める声が増えています。トレーサビリティを導入することで、企業は消費者に対して製品の安全性や生産過程の透明性を示すことができ、これが顧客満足度の向上につながります。
トレーサビリティは、消費者に安心感を提供するための有力な手段です。例えば、食品や飲料に関しては、製品のラベルに生産者情報や生産過程が記載されていることが多く、これにより消費者は購入前に製品の信頼性を確認することができます。こうした透明性のある情報提供は、消費者の信頼を獲得するだけでなく、企業の誠実な姿勢を示すものでもあります。
さらに、消費者が購入後に製品のトレーサビリティ情報を簡単に確認できるようにすることで、消費者のエンゲージメントを高めることができます。QRコードをスキャンするだけで、製品の生産履歴や流通経路を確認できるシステムを導入することで、消費者は自らが選んだ製品についての知識を深めることができます。これにより、消費者とのコミュニケーションが促進され、企業と顧客の関係が強化されます。
ブランド力の向上
トレーサビリティの導入は、企業のブランド力を向上させる重要な要素です。トレーサビリティを実施することで、企業はビジネスの透明性を高めることができ、これが消費者に受け入れられやすくなる要因となります。消費者は、製品の品質や安全性に対して透明性のある企業を信頼する傾向にあり、その結果、トレーサビリティを実施している企業は他社と差別化され、競争優位性を確立することができます。
また、トレーサビリティは無断転売や偽造品の流通といった不正流通対策にも効果的です。トレーサビリティによって製品の正確な流通経路を把握することができるため、偽造品や模造品の流通を防止し、ブランドの信用を保つことができます。これにより、企業はブランドイメージを高め、消費者に対する信頼性を確保することが可能です。
さらに、トレーサビリティの導入は、企業のCSR(企業の社会的責任)活動にもつながります。製品の生産過程や流通経路において、環境への配慮や社会的な公正性を示すことで、消費者や社会からの評価を高めることができます。持続可能な生産や公正な取引を実施していることを示すことは、企業のブランド価値を向上させる重要な要素となります。
トレーサビリティの課題
トレーサビリティは多くのメリットを提供する一方で、その導入と運用にはいくつかの課題も存在します。これらの課題を理解し、克服することが、トレーサビリティの効果的な活用につながります。
完全に普及したとは言えない現状
トレーサビリティの普及状況にはまだまだ課題が残っています。農林水産省の令和2年度「生産者等の食品トレーサビリティに関する意識・意向調査結果」によると、流通加工業者のうち約8割が入荷や出荷の記録を保存しているものの、内部トレーサビリティについては約半数が「取組を実施していない」と回答しています。これは、トレーサビリティが全体として完全に普及していない現状を示しています。
内部トレーサビリティが進まない理由の一つには、企業内のデジタル化やシステム化の遅れが挙げられます。多くの企業では、未だに手作業による記録や紙ベースの管理が行われており、これがデータの正確性や追跡の効率性を低下させる要因となっています。さらに、トレーサビリティの導入には新たなシステムや技術の導入が必要であり、これが企業にとって負担となっている場合も少なくありません。
入荷した原料又は製品を加工工程の中でどの製品に使用し、どこに出荷・販売したか対応付ける記録の保存(内部トレーサビリティ)の取組については、「取組を実施している」と回答した割合は 45.1%で、「取組を実施していない」と回答した割合は 54.9%であった。これを業種別にみると、食品製造業と食品卸売業では、「取組を実施している」と回答した割合が5割を超えている。入荷した製品を消費者に提供する食品小売業と外食産業では、「取組を実施していない」と回答した割合が6割を超えている。
企業同士で認識が異なる
トレーサビリティ、特にチェーントレーサビリティを確立するためには、サプライチェーン全体での連携と協力が不可欠です。しかしながら、実際には生産、物流、販売といった異なる立場や価値観を持つ企業の間で認識や理解にズレが生じることが多く、これがチェーントレーサビリティの実現を妨げる要因となっています。
例えば、生産者は製品の品質を重視する一方で、流通業者はコスト効率や納期を優先することがあります。このような立場の違いが、トレーサビリティの導入における優先事項や必要な機能についての認識のズレを生じさせます。さらに、企業ごとに使用しているシステムや技術が異なるため、データの統合や情報共有が難しくなることもあります。
このような課題を克服するためには、業界全体での共通基準の策定や、異なるシステム間のデータ互換性を高めるための取り組みが求められます。企業間でのコミュニケーションを強化し、共通の目標を設定することで、サプライチェーン全体でのトレーサビリティの導入をスムーズに進めることができるでしょう。
コストがかかる
トレーサビリティの導入には、初期費用や運用コストがかかるため、特に中小企業にとっては大きな負担となることがあります。トレーサビリティは安心や安全を実現するために必要な仕組みですが、直接的に売上を拡大するものではありません。そのため、投資に対する費用対効果が見えにくい部分があります。
初期費用としては、トレーサビリティを実現するためのシステムの導入や、従業員の教育・訓練などが挙げられます。また、運用にあたっては、データの記録・管理のための人員や時間が必要となり、これが企業の負担となります。特に、導入初期はシステムの不具合や操作ミスが発生しやすく、これが生産性の低下を招く可能性もあります。
こうしたコストに対する懸念から、トレーサビリティの導入に踏み切れない企業も多いのが現状です。この問題を解決するためには、トレーサビリティがもたらす長期的な利益や、リスク管理における重要性を正しく理解し、投資の正当性を企業内で共有することが重要です。さらに、業界全体でのコスト削減策の導入や、政府や業界団体による支援制度の活用なども検討すべきでしょう。
データの管理とセキュリティの課題
トレーサビリティの導入に際しては、データの管理とセキュリティも重要な課題です。製品の追跡情報には多くの個人情報や企業の機密情報が含まれることが多いため、それらのデータをどのように安全に管理するかが重要です。
デジタル化されたデータは、ハッキングや情報漏洩のリスクが常に伴います。特に、サプライチェーン全体で情報を共有する場合、データの改ざんや不正アクセスを防ぐための高度なセキュリティ対策が必要となります。このため、各企業は最新のセキュリティ技術を導入し、従業員に対するセキュリティ教育を徹底する必要があります。
さらに、データの正確性を維持することも重要です。誤ったデータがトレーサビリティの過程で使用されると、誤った判断や対応が行われる可能性があり、これが企業にとって大きなリスクとなります。したがって、データの入力や管理に関する厳格なプロセスを設けることが重要です。
トレーサビリティに利用されるバーコード
トレーサビリティを実現するためのシステムにはさまざまなものがありますが、最も広く利用されているのがバーコードです。バーコードには、一次元バーコードと二次元バーコードの2種類があります。それぞれに特徴があり、用途に応じて使い分けられています。
一次元バーコードは、主に製品の基本情報を管理するために使用されます。例えば、JANコード(日本の標準的な商品コード)は、スーパーやコンビニエンスストアで販売されている商品に広く貼付されています。このコードをスキャンすることで、商品名や価格、製造元などの情報を瞬時に取得することが可能です。
一方、二次元バーコードは、より多くの情報を格納できるという特徴があります。QRコードやData Matrixなどが代表的な二次元バーコードで、製品の詳細情報や流通経路、製造履歴などを格納することができます。二次元バーコードは、スマートフォンなどのモバイルデバイスで容易に読み取れるため、消費者向けの情報提供にも利用されています。
トレーサビリティでは、各工程で作業の履歴を取り、データを一元で管理することが重要です。バーコードを利用することで、ハンディターミナル(業務端末)を用いてバーコードを読み取るだけで簡単に情報を取得することができます。例えば、製品が「いつ」「どこで」「誰によって」作られたのかを記録する際、バーコード管理を行うことで、自動的に日付情報を付与し、日付の管理を容易にすることが可能です。また、手作業による台帳への記録と比較して、バーコードスキャンは記入漏れや記入ミスの削減に寄与します。
さらに、バーコードは製品の追跡においても重要な役割を果たしています。製品に付与されたバーコードをスキャンすることで、その製品がどの工程を経て現在どの位置にあるのかをリアルタイムで把握することができます。これにより、サプライチェーン全体の透明性が向上し、問題が発生した際には迅速に原因を特定し、対応策を講じることができます。
バーコードは倉庫管理にも有効
バーコードは、倉庫管理においても非常に有効なツールとして利用されています。倉庫内での検品作業、入出荷管理、ロケーション管理、ピッキング、棚卸しなど、さまざまな場面でバーコードが活用されています。バーコードを利用することで、製品の正確な位置や数量を把握し、物流業務を効率化することが可能です。
WMS(Warehouse Management System)と呼ばれる倉庫管理システムを導入することで、製品をアナログではなくデジタルで管理することができ、物流倉庫内の製品の流れを詳細に記録することができます。これにより、在庫管理が容易になり、誤出荷や在庫不足といった問題の発生を防ぐことができます。
バーコードを活用した倉庫管理のもう一つの利点は、ヒューマンエラーの防止です。手作業でのデータ入力や記録では、どうしてもミスが発生する可能性がありますが、バーコードを用いることで、これらのリスクを大幅に削減することができます。バーコードスキャンにより、誤出荷を防止し、正確な情報に基づいて業務を進めることが可能です。
また、バーコードによって蓄積されたデータを活用することで、業務プロセスの見える化を図ることができます。例えば、入出荷の時間や作業者の動きなどを分析することで、業務の無駄を特定し、効率化を進めることが可能です。WMSには、バーコード発行機能やロット管理機能、消費期限管理機能などが備わっているものもあり、これらを活用することで、より高度な倉庫管理を実現することができます。
二次元バーコードの活用も進んでおり、スマートフォンを利用した在庫管理や商品のトレーサビリティ確認などが行われています。これにより、現場での作業効率が向上し、リアルタイムでの情報共有が可能となります。例えば、商品の在庫状況をスマートフォンで確認し、必要な商品をすぐにピッキングすることができるようになります。
このように、バーコードはトレーサビリティの実現だけでなく、倉庫管理や業務効率化にも大きく貢献しており、今後もその重要性は高まることでしょう。企業はバーコード技術を活用し、トレーサビリティと効率的な業務運営を両立させることが求められています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?トレーサビリティは、現代のビジネス環境において、製品の安全性と品質を保証するための重要な要素となっています。特に、消費者の安全意識が高まり、製品の透明性が求められる中で、トレーサビリティの実現は企業にとって不可欠です。
製品をバーコードで管理することは、トレーサビリティを実現するための第一歩です。バーコードは、製品の情報を正確かつ迅速に取得するためのツールとして、製造から流通、消費に至るまでのすべての過程で役立ちます。バーコードを活用することで、製品の追跡を簡単に行うことができ、問題が発生した際には迅速に対応することが可能です。
また、製品にバーコードが付与されていれば、トレーサビリティの実現に留まらず、倉庫管理の効率化にも寄与します。バーコードによって、在庫管理や入出荷作業がスムーズに行われ、業務の効率化が図られます。これにより、企業はコスト削減とサービスレベルの向上を同時に実現することができ、競争力を高めることが可能です。
弊社トミーズコーポレーションが提供するクラウドWMS「BEELOGI(ビーロジ)」は、こうした倉庫管理をサポートするためのシステムです。BEELOGIは、ハンディーターミナルにスマートフォンを採用することで、本来高額になりがちな導入コストを大幅に削減することに成功しました。このコスト削減により、中小企業を含むさまざまな規模の企業が手軽にシステムを導入できるようになっています。
さらに、BEELOGIはWiFiが無い場合でも4Gや5Gなどの携帯端末回線(SIMカード)を利用することで、「いつ」「どこでも」利用できる柔軟なシステムとなっています。この特長により、場所を問わずリアルタイムでのデータ管理が可能となり、物流の効率化を促進します。
トレーサビリティを実現するためには、バーコードの導入が重要です。しかし、それだけではなく、包括的な倉庫管理システム(WMS)の導入が、トレーサビリティを支える土台となります。バーコードとWMSの組み合わせにより、企業は製品の追跡と管理を効率的に行うことができ、消費者の信頼を得ることができます。
トレーサビリティの実現は、消費者の安全を守り、企業のブランド価値を向上させるための重要な取り組みです。私たちは、企業がこれらの取り組みを効果的に進められるよう、最適なソリューションを提供し続けます。トレーサビリティの導入を検討されている際には、ぜひ一緒にWMS(倉庫管理システム)の導入もご検討いただき、安全で効率的な物流の実現にお役立てください。
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